02 7月

【特別連載(寄稿) 第5回】「Post-LIBについて 2/2〜LIS電池と多価イオン電池とPost-LIB研究への期待〜」

今回はLIS電池と多価イオン電池を題材に「化学反応型」活物質について考えてみます。

まずLIS電池です。正極に硫黄、負極Li金属を用いた電池と定義します。

以下は私の記憶と認識です。
活物質としての硫黄は、2000年ぐらいには国内の電池メーカーですでに評価されていたと思います。その後、韓国メーカーが成長する過程で硫黄の活物質を検討していました。しかし、サイクル特性が悪く下火になって行きました。その後、学術界で注目され、今現在盛んにサイクル劣化のメカニズム検証や対策が行われています。
活物質としてのLi金属は、一次電池としては昔から使用されてきましたが、1989年ごろNTTが二次電池として採用して発火事故がおきて以来、本格的な採用には至っていません。こちらも近年、固体電池などと組み合わせて盛んに取り組まれています。

では、空位電池同様にデバイスとして期待できるエネルギー密度を試算してみます。
Li2S ⇔ 2Li+ + 2e+ 1/8 S8 (Ev=2.1 V)
Li2S 密度 1.66 g/mL 理論容量 1140 mAh
空気電池同様に、放電状態の時もっとも電池の体積が大きくなりますので、この時の構造でエネルギー密度を試算します。

エネルギー密度を前回同様に計算すると約970Wh/Lになります。
基準としましたLiイオン電池の500Wh/Lに比べると2倍程度のエネルギー密度になります。
今回のLiイオン電池の試算で用いた正極材料は、523〜622程度を想定しています。811やNCAを用いたとしても車載するための必要な出力を維持したまま1000Wh/Lを実現するのは現時点では極めて困難だと思いますので、価値はあると思われます。
このLIS電池の試算において、イオンや電子の輸送に関わる物性は全てLiイオン電池のそれに対応するもの同等と仮定をおいています。

では、課題について考えて行きます。
シャトル効果につきましてはほかで取り上げられておりますので、ここではエネルギー密度視点で活物質・電極について触れます。

まずは、正極の硫黄です。
最も大きな課題は、硫黄の大きな電気抵抗です。充電状態のS /放電状態のLi2S共に一般的なLiイオン電池の正極活物質に比べ数桁抵抗が大きいです。Liイオン伝導に関しても抵抗は同様に大きいです。
一般的には、カーボン材料などとの複合化や微粒子化により抵抗を低減します。しかし、これらの方法は正極における活物質の割合を低下させてしまいます。つまり、電池としてエネルギー密度が低下してしまいます。
基準としたLiイオン電池の正極における活物質の割合は、80vol%です。970Wh/LのLIS電池の値も正極における活物質(Li2S)の割合は80vol%で試算していますので、半分の40vol%までさげた場合、Liイオン電池のエネルギー密度を上回ることができなくなります。
多くの研究では嵩高いカーボンを大量に入れて評価しているかと思います。エネルギー密度を主張する研究においては、電極密度次第では価値が疑わしいと感じてしまいます。

また、挿入脱離型と異なりSのような化学反応型は、充放電を繰り返した時同じ形状を維持するのが困難です。初期状態で活物質の高密度化と低抵抗が両立できたとしても、その状態を維持したまま充放電反応を繰り返すことが難しいのが現状です。
これは、耐久性能が低いことにも繋がっていきます。

以上を踏まえまして、硫黄活物質のエネルギー密度視点で課題は電極としてのイオンや電気抵抗を下げることだと考えています。活物質自体の抵抗を下げる術があるのが最も効果的ですが、伝導を補助する材料との複合化や電極構造を工夫することも効果的です。その場合、化学反応型は形状を大きく変えるので、電池反応だけでなく形状においても可逆であることが必要だと考えています。

次に負極のLi金属です。
前述で市場不具合(安全性)の最も大きな要因はデンドライド生成による短絡です。
私の理解では、そのデンドライドを抑制する方法として、負極にカーボンを用いることと固体電解質を用いる方法が検討されていたと認識しています。前者がLiイオン電池という名で世に出て大きな発展を遂げました。一方、固体電解質を用いたとしてもデンドライドの抑制は困難でした。粒界にそってデンドライドが生成している絵は、1990年ごろの固体電池の論文でよく観察されていました。
デンドライド抑制は固体電解質以外でも被膜の状態制御など様々なチャレンジがされてきましたが、市場に出せる段階には至っていないと認識しています。
エネルギー密度に関する課題としましても、デンドライド抑制は重要です。S同様にLi金属負極も形状の可逆性が必要です。形状が不可逆ですと、不可逆容量が発生しやすくなります。パス切れや皮膜生成などがその要因です。
また、上記を解決する手段として電極構造に工夫する場合、エネルギー密度が下がります。今回の試算では、Liはシート状に可逆に溶解析出し、放電状態では負極にLiは存在しない仮定を起きました。ですので、構造体の厚み分エネルギー密度が下がってしまいます。過剰にLi金属を用いる場合も同様です。

次に、多価イオン電池のエネルギー密度について考えてみます。
1価のLiの代わりに2価のMgや3価のAlを正負極間で移動させることでエネルギー密度を高めようというロジックかと思います。
私の理解だと、挿入脱離型を採用した時には、MgやAlはLiよりも高いエネルギー密度を実現するのが困難だと認識しています。
理由としては以下の2点です。
・標準電極電位の相対関係からLiよりも大きな電池電圧を得られない。
・価数が大きくなるとクーロン引力が強くなり活物質から脱離させるのが難しくなる。
そのような理由からエネルギー密度を特徴とする多価イオン電池の研究には、化学反応型の活物質が用いられることが多いと考えています。

では、化学反応型の活物質を用いることでエネルギー密度は高くなるのでしょうか?

例としてCo3O4とLi, Mg, Alイオンが電池反応した場合を考えます。
放電状態では、Coと各イオンの酸化物Li2O, MgO, Al2O3が生成している反応です。
この時の生成した酸化物に注目します。1molあたりの体積は、それぞれ15.0, 11.0, 25.5 cc/molです。蓄えている電子数で合わせると、7.7, 5.5, 4.3 cc/mol(e)になります。
つまり、 LiよりMg、MgよりAlの方が高密度に電気をたくわえることができます。
一方で負極に各種金属を用いた時の電池の電圧は標準電極電位の傾向を引っ張りLi>Mg>Alの順で低くなってしまいます。
電圧はフッ化物などもちいると大きくなりますが、価数が大きくなると可逆な電池反応を得るのが難しくなります。
エネルギー密度はあえてここでは数字は出しません。是非、興味のある方は自分で計算してみてください。与えられた数字を使うのと、自分で試算した数字では価値が違います。

計算すると基準のLiイオン電池より大きな値になるかと思います。
しかし、この値もLIS電池同様に活物質の電気やイオンの輸送能力がLiイオン電池並みという仮定が入っています。実際には数桁劣っています。

今回取り上げたLIS電池と多価イオン電池、前回の空気電池は、共に可逆な化学反応する活物質を利用して電池としています。
このような化学反応型の活物質の問題点は、イオンや電気を輸送する能力が乏しいことです。そのせいで、容量自体は大きな値を示しますが、実デバイスとして有効な出力を前提とした時にはそのポテンシャルを十分に活かすことができません。

この問題点は無視されているわけではありませんが、エネルギー密度視点を考慮したものが少ないです。正確にいえば体積エネルギー密度です。多くの研究は重量エネルギー密度に着目されていますが、車載を意識した際には限られた空間に載せなければならないので、まずは体積が重要です。

すぐには全ての問題を解決する策が出てくるのは難しいかと思います。
なので、原理原則の解明に注力していただくことを私自身は望んでいます。
それらの取り組みは、充放電のエネルギー効率や耐久性能の悪るさを解決するためにも重要なものになると思います。
そのような視点でRISINGでの研究が推進されることを期待しております。

<過去寄稿連載記事>
【特別連載(寄稿) 第1回】「テスラから感じる世の中の電動化への見方」
http://lithiumion.info/myblog/?contribution_seriali=【特別連載(寄稿) 第一回】「テスラから感じ

【特別連載(寄稿) 第2回】「全固体電池の実際」
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14353

【特別連載(別冊)】 第1回 対談
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14391

【特別連載(寄稿) 第3回】「電池ロードマップの実際」
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14408

【特別連載(別冊)】第2回 荒木ーX対談
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14476

【特別連載(別冊)】第3回 荒木ーX対談 〜中国、資源、POST-LIB〜
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14536

【特別連載(別冊)】番外編 荒木-X 対談 〜セミナー開催〜
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14588

【特別連載(寄稿) 第4回】「Post-LIBについて 1/2〜空気電池を中心に〜」
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14633

【特別連載(別冊)】第4回 荒木ーX対談 〜RISING〜
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14792