18 6月

【特別連載(寄稿) 第4回】「Post-LIBについて 1/2〜空気電池を中心に〜」

今回の投稿は2回に分けて、空気電池、リチウム硫黄電池(LIS)、多価(Mg/Al)イオン電池を題材に話を進めさせていただきます。
定量的に比較できる工夫をしてみました。計算や前提に荒いところがある事はお許しください。

Post-LIBをLiイオン電池と対応(?)に比較することで、その価値を考えてみたいと思います。
また、個人的意見ではありますが、今後進め方や期待するところを述べさせていただきます。

Post-LIB。Liイオン電池の次の二次電池ということになるでしょうか。
多くの論文や記事では、全固体電池同様にNi-MH電池からLiイオン電池に変わる様なものではなく(第2回投稿参照)、Liイオン電池の性能を向上させるような扱いをされているかと思います。
特に高エネルギー密度を主張されることが多いかと思います。

Liイオン電池を正負極活物質間でLiイオンの挿入脱離によって電池反応する(ロッキングチェア構造)電池と定義すれば、全固体電池は電解質が変わっただけで、採用する活物質はほぼLiイオン電池と変わらないので、Post-LIBではないですので、除外させていただきます。

まず、なぜエネルギー密度が高くなることが期待できるか原理的なところから考えたいと思います。

なぜこれらPost-LIBのエネルギー密度が高いと考えられているかついて、私の理解で説明させていただきます。
電池の構造はシンプルに考えると、電気やイオンを蓄える材料(活物質)、電気やイオンを移動させる材料(電解質、集電体など)、それらを収納する材料から構成されています。
多くの研究において、活物質の性質からエネルギー密度が高いかどうかが判断されています。
空気電池、LIS電池、多価イオン電池は多くの場合、挿入脱離型ではなく化学反応型の活物質(反応物)が採用されることが多いです。それが、エネルギー密度が高いと言われる要因ではないでしょうか。

エネルギー量(Wh)は、容量(Ah)×電圧(V)です。
容量(Ah)について考えます。(以下、原子と定義すべきところもイオンと表現します。)
単純化すると蓄えられるイオン量です。多価イオンの場合は、価数が大きいのでそれも有効に働きます。
挿入脱離型材料は、クーロン力(イオン結合)を利用してイオンを収納放出します。
一方、化学反応型は字のごとく化学反応し、イオンを共有結合に近い形で取り込みます。
収納したイオンとその周辺の元素の距離は、圧倒的にイオン結合より共有結合の方が短いです。
つまり、反応型の活物質の方が高密度にイオンを収納することができます。

次に、電圧(V)です。(電位と電圧の違いは説明を端折ります。)
電位はイオンを蓄えた前後の自由エネルギー差です。挿入脱離型の場合、正極での遷移金属の価数変化を利用することで高い電圧を可能にしています。
化学反応型の場合、収納された状態で蓄えたイオンと周辺元素の結合力が大きいほど大きな電位を生みます。一方で、結合力が強いと電池反応が進みにくいです。計算上では、挿入脱離型と同等の電圧が達成できますが、実際の電池反応も加味すると、挿入脱離型の電圧の方が高いのが現状かと思います。

少し話が逸れます。
反応型の活物質の最初の提案した論文として、2003年ごろのタラスコンらのNatureの論文を引用される方が多いのではないでしょうか?個人的には、1998年頃に富士フィルムがScienceに投稿した酸化スズが最初だと思っています。同意いただける方は、今後はこちらを引用して日本を盛り上げていただけると嬉しいです。

話を戻します。
電池を製品に使用する側としては、材料ではなく「デバイスとして」エネルギー密度が高いことが必要です。以下で、デバイスとして、Post-LIBがどの程度エネルギー密度としてポテンシャルがあるのか考えてみます。
出入力特性を加味します。エネルギー密度が高くても必要な電力を共有できなければ製品として成立しません。
出入力特性を考える際には、電子とイオン両方の移動に着目すべきですが、ここではイオンだけに着目して議論を進めさせていただきます。

まずは、比較対象となるLiイオン電池について考察してみます。
(以下は現状です。今後進化については加味していません。)
下の図表は私が簡易的に設計した500Wh/LのLiイオン電池の構造の一例です。

EV向けの電池を想定しています。断面図の構造が1.4m2分積層されたり巻回されたりして電池の中に入っていると考えてください。その総体積は0.26 L程度です。正極容量は出荷後で170mAh/g程度ですので、対Li金属で評価すると初期容量は190mAh/g程度出る三元系とお考えください。負極は、315mAh/g程度になります。
現状、この構造・仕様の電池は、1C(50A)でSOC 0100で室温で3000サイクル程度回して容量維持率は70%程度の性能でしょうか。

正極の体積密度に注目します。
三元系の真密度は約4.2g/mLです。バインダー、電気伝導助剤、正極活物質の構成比を加味した平均の真密度は4g/mL程度ですので、正極には電解液が染み込む空間が20%以上占めています。
負極は計算すると40%ぐらいです。図は放電状態の数値ですので、Liイオンが負極グラファイトに挿入された状態では膨張しますので、その空間は40%以下になります。
電極を厚くすると集電体側までイオンを運ぶために電解液の充填割合を高くしないと出入力特性が低下してしまいます。

電極中のイオン伝導度を上げる技術により電極にしめる活物質の割合を高める(エネルギー密度をあげる)ことができます。粒径を小さくして表面積を大きくするのが一般的ですが、活物質自体の伝導度をあげることも有効です。
活物質中のイオン伝導度は、一般的に化学反応型に比べ挿入脱離型の方が数桁大きいです。

以上を踏まえまして、空気電池のエネルギー密度をLiイオン電池と比較を試みます。
まず、試算するに当たり、仮定・前提を設定します。
空気電池の反応で生成するLi酸化物中および電解液中のLiイオン伝導度、およびその他反応に関わる抵抗などはすべてLiイオン電池の比較対象のものと同等と仮定します。知り得る限りでは空気電池に不利な条件でないと認識しています。電解液を水系にするなどのアプローチがありますが、それを成立させるために大きな課題が発生しますのでここでは除外します。
また、放電状態で生成するLi酸化物の粒径を小さくすることで、この時の電極密度をLiイオン電池以上にあげることも可能かも知れませんが、技術的にハードルが高いと思われます。ですので、この時の電極密度もLiイオン電池同等とします。
電池反応および生成物の物性は以下のように設定します。
Li2O2 → 2Li+ + 2e + O2 (Ev = 2.96 V)
Li2O2 密度:2.31 g/mL 理論容量:1170 mAh/g

前置きが長かったですが、これをふまえて具体的な空気電池のエネルギー密度を計算する構造を提示します。
図は放電状態の構造です。

正極において、触媒やカーボンなどは無視して80%がLi2O2、残り20%に電解液が染み込んでいるイメージです。充電時にすべてのLiが負極に移動します。この時の厚さは1μm程度ですので、試算するに当たり無視しました。
基準としているLiイオン電池に比べ断面積にしたとき厚さが薄くなりますので、面積が2.6m2になります。あとは計算していただくと3200Wh/L(電池容量:約390Ah)程度の数字が出てきます。
かなり空気電池の技術的進化を加味した試算ではありますが、Liの移動だけを考えればLiイオン電池を上回るエネルギー密度が期待できます。

では、次に電池反応に必要な酸素の移動も加味してみます。
390Ahの電池容量を得るためには、326L(14.6mol)の純酸素(空気であればさらに。。)を供給しないといけません。
つまり、Liイオン電池並みの出力を出すためには、1時間でこの量の酸素を0.36Lの電池に共有しないといけません。
車両向けの燃料電池を参考にするとこの量の酸素を送り込むのは不可能ではないと思います。
しかし、そのためには流路を確保しないといけません。今回詳細は割愛しますが、流路の体積を加味すると1000Wh/L程度まで期待できるエネルギー密度は下がってしまいます。
さらに、この数値には、酸素を送り込むためにポンプなどのシステムや副反応に寄与する気体を除去する機構などは加味していません。
また、参考にした燃料電池と異なり空気電池は電解液を使用していますので、酸素の輸送にはさらなる工夫が求められることが予想できます。

後半は、かなり荒い進め方をしてしまいましたことお許しください。
以上を踏まえまして、個人的見解を述べさせて頂きます。

今回の試算は、ある程度出力が求められる車両向けを前提としています。
この場合、現在の延長の研究では、世の中で期待されているような大幅にLiイオン電池を上回るエネルギー密度を実現するのは現状の技術の延長では困難に思えます。
その期待を実現するのであれば、前述で問題を指摘した酸素の供給方法含め空気電池をデバイスとして実現するためのシステムの研究を加速することが重要だと考えています。

また、車両のように大きな出入力を必要としない用途としての価値は、十分に可能性はあると思います。特に大きな出力や入力(充電)の必要ない一次電池のような使われ方には適していると思います。

最後に、今回の投稿は現時点の研究を否定するのもではありません。このような課題を把握することで、酸素還元触媒の開発のみならず、実用化に必要なその他複数のブレイクスルーや技術、進むべき方向性が見えてくるのではないでしょうか?

現在行われている多くの研究の狙いが成立する前提で今回の試算は行なっていますので、その研究成果がないと上記の価値をうたうことができません。

次回は、LIS電池と多価イオン電池について同様にエネルギー密度について考えてみたいと思います。

「次回:Post-LIBについて 2/2 ~LIS電池と多価イオン電池~」

<過去連載記事>
【特別連載(寄稿) 第1回】「テスラから感じる世の中の電動化への見方」
http://lithiumion.info/myblog/?contribution_seriali=【特別連載(寄稿) 第一回】「テスラから感じ

【特別連載(寄稿) 第2回】「全固体電池の実際」
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14353

【特別連載(別冊)】 第1回 対談
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14391

【特別連載(寄稿) 第3回】「電池ロードマップの実際」
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14408

【特別連載(別冊)】第2回 荒木ーX対談
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14476

【特別連載(別冊)】第3回 荒木ーX対談 〜中国、資源、POST-LIB〜
http://lithiumion.info/myblog/?post_type=contribution_seriali&p=14536