22 5月 2018

【特別連載(寄稿) 第3回】「電池ロードマップの実際」

(一部、初期公開時に途中で切れていたため、追加しております。2018/5/22 10:00)
では、今回も疑問形式で導入をしてみます。

なぜ、背景や根拠も自社で明確にできないまま、他人の書いたロードマップを信じているのでしょうか?

ロードマップは製品の普及や高性能化を強力に推進する場合、極めて重要な役割を担うことがあります。
最もいい例が、ムーアの法則にしたがったロードマップです。集積回路の小型化が進み、それに伴う処理速度が進化しました。また、この法則の大きな機能として、周辺デバイスや部品もそのトレンドに合わせ開発を進めることができたことです。30歳後半以上の方は、最終商品であるPCの高性能化を肌身で感じていたのではないでしょうか。
今はその役割を終えましたが、今のスマホ・クラウドなど含めその過程があったからこそ実現できたのは間違いないのではないでしょうか。

では、自動車産業を対象とした電池に対して、研究開発を推進するにあたり指標となるロードマップは存在するのでしょうか?

材料メーカーや電動車ビジネルを検討されている方は、開発方針を決めるためにも自動車業界のロードマップに当たるようなものがほしいのではないでしょうか。
Googleで検索すると2013年にNEDOが策定したものが出てきます。多くの方がロードマップを必要とするときこれを参考にするのではないでしょうか。

出典:NEDO 二次電池技術開発ロードマップ 2013

ここに書いてある情報は、ロードマップというよりは自動車メーカーからヒアリングした参考値という表現の方が正しいと思います。自動車業界はこの時点でどのような電動車を世に出すか検討段階だったかと思います。また、ZEV法は当時から大きく変わりました。また、中国におけるEVの普及とそれに伴う法規などまだ想像できませんでした。これからも取り巻く環境は変わっていくのは皆さんが感じている通りで、自動車メーカーの考え方は変わっていくと思われます。
そのような背景を踏まえNEDOが更新していない現状です。

一個人が無責任に書くのは問題ですので概要程度を、業界にいるもののとして感覚的にではありますがおおよそ確実と思われる点を更新してみたいと思います。
エネルギー密度(重量・体積)、出力密度、コスト、耐久性能が電池の進化軸であることは、今も変わっていないです。
性能軸でいうと、出力だけではなく、充電性能を向上させるために入力密度が必要になってきています。

安全について記載されていないのには理由があると思います。
安全性能に対する問題を指摘される方がいますが、少なくとも日本の自動車メーカーは、Liイオン電池が安全なものである認識を持ち、安全な形でお客様に使用していただくことを確保して購入いただいています。設計などの思想を理解せずに、一方的な試験によりLiイオン電池があたかも不安全のような表現をされる方がいますことは残念に思います。あえて、不安全になるとしたら製造面で起こる問題ではないでしょうか。これについても過去の電池メーカーの教訓・知見を踏まえ、さらに検査を厳しくして自動車メーカーの製品は作られお客様に提供されています。これはこの先も不変です。

話を戻します。
数値として大きく変わったのは、2030年以降のエネルギー密度進化ではないでしょうか。飛躍的な進化を予測していましたが、それは難しいかと思います。
作成当時は、ポストLIBと言われていた研究が盛んで、それらが取って代わる風潮がありましたが、現時点で車に搭載できる形までできていないことを考えると2030年に搭載は極めて厳しいです。現行のLiイオン電池の進化したものが搭載されていく可能性が高いです。(もちろん国の支援を得た全固体電池もその候補です。)それに伴い、コストも劇的に安くなることは難しいかと思います。
耐久性能に関しては、エンジンの新車性能と同等をめざしていることが想像できます。エンジンは10年で航続距離低下に顕著に結びつく劣化はしませんが、電池はそうではありません。この視点はお客様に重要な情報ですので、何らかのルールがこれからできる可能性はあるのではないでしょうか。

と、書いてみましたものの材料メーカーや電池を使ったビジネスを検討される方には、ムーアの法則にしたがったロードマップに比べたら役に立たない情報かと思います。まだ、上記を参考にしていただいても変化していく可能性が十分にあります。

そのようなとき参考にしてしまうのが、図のようなトヨタ自動車の情報ではないでしょうか。

出典:トヨタ環境フォーラム2015資料

これを見ると、Liイオン電池の後に全固体電池、空気電池が来ると思ってしまいます。
しかし、これはロードマップではありません。トヨタ自動車の開発方針にすぎません。しかも、2015年時点の。

それがわかる一例をあげます。
日産の最新LEAFに搭載されている電池は460Wh/Lです。また、この図において出力の定義がわかりませんが(結構重要なんですがあんまり議論にならないのはどうしてでしょう?)、LEAFに搭載しているモーター出力から逆算するとこの電池は1000 W/Lぐらいです。Liイオン電池も進化しており、全固体電池のターゲット領域に迫りつつあります。電池メーカーの試作品レベルであればこの領域のものがすでに作れる会社は一つではないような気がします。
つまり、図にはLiイオン電池の進化が入っておらず、あたかも全固体電池などが価値のあるように見えてしまいます。
また、この図が開発目標であることは電池メーカーの方々では十分に予測できる点があるのではないでしょうか。それは出力密度が定まっていることです。
電池を設計していくうえで、エネルギー密度は予測できます。出入力や耐久性能は、新規の材料や構造にした場合は作ってみないとわからないことが多いです。しかも、小型の電池からでは予測ができないことが多いです。2015年時点では出力の予測は難しいと推測しています。あくまで、推測ですのでご参考程度にとらえてください。

また、このような図を参考にするときに気を付けないといけないことがあります。
例えば、前に出てきたLEAFの電池は出力が1000W/Lしか出ないわけではありません。商品性を加味した値が1000W/Lなだけです。耐久性能など考えなければ、倍ぐらいでも出せるのではないでしょうか。高SOCではもっと出るでしょう。
そのような背景を知っていたり理解していないと、間違った判断につながります。

個人的な見解になりますが、会社の方針を任せられるようなロードマップは公には存在しないといっていいのではないのでしょうか。
1番シンプルな方法は、自分で意思を持って描き、責任を持って実行することかと思います。答えは探すものではなく自分で作るものです。
と、理想論だけでは無責任ですので、提案をしてみたいと思います。考えるきっかけになれば嬉しいです。

視点や見る領域を変えてみるのが一つ手ではないでしょうか。
例えば、相手企業が欲しい技術をやるだけではなく、相手企業が何で悩んでいるかを考えてみてはいかがでしょうか?
今、話題になっているのが資源問題です。情報が正しいかどうかは置いておいて、自動車メーカーにとっては不安の種であることは間違えないです。ユミコア、BASFなどは資源の調達リスクを請け負うことで受注を得るきっかけにしています。それを実現できる技術や事業に積極的に投資しています。相手先と持ちつ持たれつの関係を作ることです。
こういったことを実行するためには、自分たちを取り巻く事業を俯瞰し事業構造を理解することが必要不可欠です。

もう一つは、自動車業界でなくニッチな産業に目を向けるのもあるかと思います。
自動車産業は巨大であるがために、巨額な投資とコスト競争にさらされることが多いです。
また、たまに自社はリスクを負わないで美味しい思いをできないかと考えている方に出会いますが、そんな話はないと思ってください。美味しい話があったとしても、そういう思考のところには落ちてこないと思います。
日本では「モノつくり」というと何か美化される傾向がありますが、各社のモノつくりの考え方は、競争力があるものなのでしょうか。
芸術品を作るかのような思想になっている傾向をたまに目にします。その文化は否定しません。それを継続できる適正な事業領域を判断するもの経営者にとっては重要かと思います。

ロードマップは会社の効率良い運営のために指標として有効に働きます。しかし、結果が出る前それがころころ変わっては、会社の体力が奪われる一方です。
方針を決めたら影響されないでやりきるというのも重要かなと思います。

キレが悪いですが、電池から離れてきたので、ここら辺で止めさせていただきます。
目的でしたロードマップの解説は、多少できたと思いますので、お許しください。

<次回:第2回 荒木―X対談2>

<余談>
過去の記事を含め、私がトヨタに対して攻撃的に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことありません。おもてに出ている情報で電池領域ぐらいしかいじるところが無いです。彼らにとっては、電池は手段の一つに過ぎないからかもしれませんが。

今回のテーマであるロードマップに関連するもので、トヨタはこのようなものを示しています。
時間軸が入っていないのでロ-ドマップとは言えませんが、参考になります。

出典:トヨタ環境フォーラム2015

私の知見の範囲になってしまいますが、この方針は技術やビジネスなど多角的に眺めて理にかなっています。自社の利益だけでなくお客様の利益も考え作られています。エンジンやモーター・電池など主要部品の特性などをちゃんと考えています。
ZEV法などを指摘される方もいらっしゃるかもしれませんが、それは先を読んだ投資などでカバーしています。いい例がテスらとの関係でしょう。株で利益を得たのは想定外でしょうが、クレジット獲得(と工場問題)が目的だったと予想しています。また、お客様に直接売るだけでなくリース事業などを活用し、今も着実にクレジットを獲得しています。
また、電動車自体に注目が行きがちですが、ガソリン車を売るためのcafeへの対応、その技術投資や備えまで万全です。表に出る情報(建前)と内部での備え(本音)の使い分けも完璧です。私レベルでは否定することができません。
あえて、心配があるとしたら中国でしょうか。どう捌くのか注目しています。
あとは、技術投資であったり注力していく事業領域に注目しています。トヨタと言えど、これから関係する事業領域すべてに自ら主導していくことは厳しいと思います。資金面でも。
どのように強弱つけていくのか、どういう連携していくのか観察しています。エネルギ-、コネクテッド、自動運転などはまさにそういうものだと考えています。