17 5月

【特別連載(寄稿) 第2回】「全固体電池の実際」

前回同様に疑問に思うことから、議論を発展させていただきます。

なぜ、全固体電池において、エネルギーデバイスの専門家もしくは知識がある自動車メーカーや電池メーカーが、自分たちよりも知識がないはずの人たちが書いた記事を信用するのでしょうか?

私の偏見では、世の中が全固体電池というものを正確に理解していなため、上記のような状態が続いていると感じています。
世の中の記事に対して意見を書くようなことをしていては収拾がつかないので、全固体とはどういうものなのかを私の理解でお伝えする工夫をしてみたいと思います。

まず、前回のキーワードの「イノベーション」に加え、「ブレイクスルー」というワードで展開すると一端が見えてくるかと思います。
イノベーションを起こすには多くの課題があります。その課題を解決することを「ブレイクスルー」と定義します。
「全固体電池が市場に出ること」をイノベーションと考えます。イノベーションの定義をこのようにしたのには理由があります。後ほど触れさせていただきます。

ここまで世の中で全固体が注目されているのは、何らかのブレイクスルーが起きたからだと思います。ただ、なかなか市場に出ていないのはイノベーションにまで至っていないからだと考えています。つまり、イノベーションに至るまでに必要な課題すべてでブレイクスルーが達成できていないからだと推測しています。

では、今回の注目の背景にあるブレイクスルーは何だったのでしょうか?
個人的には東工大とトヨタの共同研究で生まれた成果はブレイクスルーだと個人的に感じていないです。もちろん研究成果としては素晴らしく、それを否定はしているわけではありません。あくまで全固体電池のイノベーションに寄与しているかの視点で判断しています。そこでの研究成果は、電解液並みのLiイオン伝導度を有する硫化物材料を発見した、といことかと思います。それ以前の材料でLiイオン伝導のトップデータを有していた材料は、大阪府立大学で創出され電解液並みではないもののデバイスとして機能するには十分な伝導度を有していた硫化物材料です。その材料はまだ現役で研究開発の対象にもなっています。全固体電池の電解質のLiイオン伝導度の課題のブレイクスルーは、大阪府立大の電解質との認識を私は持っており、コストや生産技術を踏まえたら、市場に出るもののベースはこちらではないかとも推測しています。
イオン伝導度の高い材料が見つかったのは学術的には素晴らしいものですが、「全固体電池が市場に出ること」を目的にした場合、ブレイクスルーと言うよりは性能向上に寄与していくものだと思います。

では、何がこのブームのきっかけになったブレイクスルーだったのでしょうか。
それは、硫化物の固体電解質が正極活物質と反応してしまう課題を解決した正極材のコート技術だと思います。NIMSで開発された技術です。硫化物材料は高いイオン伝導度を有しますが他の材料との反応性が高く、利用できる正極活物質が限られていました。この技術の確立のより電解液で使われている材料も使えるようになり全固体電池でのエネルギー密度向上の道が開けました。
それに注目したのがトヨタで、全固体電池の可能性が広がったと認識しています。

このように世の中で流通している情報に意を唱えるような書き方をしたのには理由があります。
上記の見方はすべての立場に適合しているとは思いませんが、少なくとも一つの意見として正しい自信はあります。
何をしたいかという目的により課題は変化します。企業活動において各社おかれた事情は異なりますので、一様に全く同じ活動をしても有効ではない可能性が高いです。自社の目的・おかれた状況に合わせた分析の上行動していくべきです。

全固体電池の現状に戻ります。
多くのプレーヤーが設定した共通する課題の1つは生産技術ではないでしょうか。
実際、今年度からLIBTECにて主要自動車・電池・材料メーカーが集結して、全固体電池を製品として作り上げることを目的としたプロジェクトが発足します。トヨタ自身も学会などでは、プロセスが課題であることを公言しており、他社も賛同し一致団結して全固体電池を作りあげていくのだと思います。
私自身はそのプレーヤーではありませんが、前回の記事に書いたように日本がイノベーションにより豊かになっていくことを望んでいる者として、市場に出すことを目的とした課題設定をしていただき、そのブレイクスルーを起こしていただくよう推進していただくことを期待しています。
今回のプロジェクトは、日本の電池の研究開発の競争力を復権する意味合いもあるかと思います。プロジェクトに参画しない韓国電池メーカーも全固体電池に注力していることは特許情報などからもわかります。プロジェクト終了後に出てきた成果では、韓国メーカーより圧倒的に優れたものを提示していただき、日本が電池産業としてリードしていける流れを作っていただくことを切望しています。

読者の中には、そもそも電解液を用いたLiイオン電池より全固体電池の方が上回るのかという疑問を持たれている方も多いかと思います。
つまり、「全固体電池を世に出すだけでなく、電解液を用いた既存のLiイオン電池にとってかわる」というイノベーションがありうるのかという点かと思います。
この点について、議論を丁寧していく必要があり、限られた紙面上では誤解を与えてしまうので、詳細の議論は次の機会にして、ここで留めておきます。
詳細に興味を持たれ方とは何らかの形でコミュニケーションをとり、有効な情報をお伝えする機会を別途設けることを、このサイトの管理人様と検討しております。わたくしの知りえる情報や考えをお伝えし、企業活動に役に立つようであれば使っていただきたいと考えています。

間違いなく現時点でいえるのは、全固体電池は、性能面でNi-MH電池がLiイオン電池に置き換わったような進化はないことです。
具体的に説明しますと、Ni-MH電池がLiイオン電池に置き換わったときに電圧が1.2Vから3.6Vの3倍になりました。示強性の性質を持つ電圧が大きくなりました。現状言われている全固体電池の価値はほぼ示量性の性質を持つ性能です。示量性の性質を持つ性能の特徴は代替案が多く存在します。具体的に言えば、全固体の価値と言われているものは、既存の電解液を用いた電池にとっても進化の余地があります。つまり、全固体電池が唯一の解ではないです。
全固体になれば新しい活物質が使えると仰る方がいますが、これも全固体だけが成し遂げられる解ではなく、既存の電解液にも解が提供できる可能性があります。

バイポーラにより電圧が大きくなるという指摘があるかと思いますが、議論の階層が違いますのでここでは深く議論することはお許しください。
現状の技術の延長においては、バイポーラ技術は電池のサイズが大きく、電圧ではなくエネルギー量が必要とされる用途では価値が薄れます。小型でかつ電圧値が高い場合に有効です。トヨタの論文などに計算方法など記載されていますので実証したい方はそちらを参考にしてください。

今回、このような記事を書き方・表現をしたのには、仕事のやり方、もしくは経営といってもいいかもしれませんが、わたくし自身危機感を感じており、それに対する問題提起も含んでいます。
弊社内でもそうですが外部の一部でも、本質を見極めることを自ら行わずに他社の動向頼りの傾向が多々見受けられます。
各社、強み弱み・投資してきているもの・事業領域などなど異なるはずです。であればアクションの起こし方が異なるはずです。また、他社と同じアクションを起こしていたのでは差別化できず大きな利益を得るのは難しくなるでしょう。

全固体電池を主導しているトヨタ自動車は、全固体電池を出す可能性には言及していますが量については公表していません。
燃料電池車MIRAIのように生産台数は3台/日のような可能性もあります。この場合、そこに商機を狙うのは事業規模によりますが良策だと思いません。

トヨタが公言したことを素直に信じて投資していけば、トヨタはあなたの会社を守ってくれるでしょうか?
指示されたのであればまだしも、第三者が書いた記事情報で行動したのでは守るはずがありません。

 

<次回、電池ロードマップの裏側>
<前回>第一回 テスラから感じる世の中の電動化への見方

<余談>
「超イオン伝導体」という言葉が飛び交っていますが、過去に星埜先生らが切り開いた道を踏まえると今の東工大の研究対象の材料が「超イオン伝導体」というには、私は疑問を持ちます。そもそも定義が曖昧なのも問題ですが、過去に超イオン伝導体と定義されたものと物理現象が異なるように感じています。
これまでの実験結果からは、粒内伝導というよりは粒子間を沿った伝導をしている感じを受けます。
私の理解では、超イオン伝導状態における伝導はホッピング伝導ではありません。ある特定の格子内サイトに安定に存在せずに活性化エネルギーも極めて低い状態です。その状態になるとアレニウスプロットの傾きがホッピング伝導とは傾きが逆になります。格子と伝導粒子の間のクーロン相互作用が極めて小さくなり、伝導する粒子同士が相関を持ち始めるためです。金属中の電子の挙動に近くなります。
大きな質量をもった粒子の多体効果を議論することは学術的にも意味があります。過去発見された超イオン伝導体の多くは電子伝導も有しており研究対象として適切な材料が少なかったです。今回の材料が、本当に「超イオン伝導体」であるのであれば、学術の発展につながるはずです。
産業に貢献するのは重要ですが、学術の貢献も視野に入れていただくこともまた、望んでおります。