14 5月

【特別連載(寄稿) 第一回】「テスラから感じる世の中の電動化への見方」

「はじめに」

電動車技術が向上し、それが世の中に定着し始めました。それに伴い、自動車業界の電動化を題材にしたニュースが近年世をにぎわせています。
しかし、出回っている情報を自分たちに有益な形で反映できている企業はどの程度いるのでしょうか?
私の知る限りでは極めて少ないように思えます。見方によっては、競争力を低下させる方向に進んでいるようにも感じます。電動車にかかわってきた者として、この状況に一矢報いることができたらと思ったのが、今回筆を執った大きな理由です。

電動車の実情について触れることも考えましたがテーマが広すぎますので、まずは電池技術に絞って書かせていただきます。
全く電動車の動向に触れないのも問題かと思いますので、初回はテスラの役目やEVに軽く触れさせていただきます。
これをきっかけに、2回目は全固体電池の実情、3回目は皆さんがよく使われている電池ロードマップの裏側について書かせていただきます。4回目以降は書いている記事との相性を考えながらテーマを選定していきたいと考えています。

今後の活動に私の見識が役に立つようであれば、何らかの形で別途コミュニケーションをとれる場を設けることも考えております。

最後に以下の点をご理解いただけますと幸いです。
知ることで得る情報と体験して得る情報は質が全く異なります。会社の体力になるのは間違えなく後者です。実体験を伴わない情報は競争力につながりません。本稿で否定をすることも多々ありますが研究活動を減衰させることを目的としていません。効率よく行動していただくためのきっかけになることを目的としていますことご理解ください。
では・・・・

 

「第1回:テスラから感じる世の中の電動化への見方」

 

自動車業界に身においていて、時々疑問を感じることがあります。そういうことを題材に議論を発展させていきたいと考えています。

まずは、テスラの世の中の扱いです。
なぜ、テスラの事業状態や経営状況がここまで注目されるのでしょうか?
その自分の理解できない理由を紐解くためにもテスラとは、EVとは何かについて考えてみようと思います。

私は、テスラはEVというカテゴリーのスタートアップ企業、という認識を持っています。
テスラは、スタートアップとしてEVが経済活動におけるイノベーションに当たるのか検証する一役を担っており、それを応援したり賛同したりする人たちが投資して日々チャレンジを続けています。

たぶんに私が疑問を感じてしまう理由の一つは、世に多く流れるニュースがスタートアップの企業としての役割の視点で分析されていないことです。本来着目しなければならないのは、彼らが行動したことによりEVがイノベーションとなったのか、なって行くのかという点ではないでしょうか。
特に自動車業界に携わるものとしては、そのような視点が重要です。テスラが事業的に失敗したからEVに注力しなくていいというロジックではまずいです。EVがイノベーションに当たるのかどうかという視点で彼らのチャレンジを分析していかないといけないはずです。
また、傍観するのではなく各社の事情に合わせ行動を起こしていかないといけないはずです。実行したものには、実行していないものには見えない何かは必ず見えており、差がついていきます。

では、EVがイノベーションなのかどうかについても考えてみます。
シュンペーターはイノベーションを「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義して、以下の5つのタイプに分類しています。
1.新しい財貨の生産
2.新しい生産方法の導入
3.新しい販売先の開拓
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5.新しい組織の実現(独占の形成やその打破)

まず、この定義に基づき、テスラが挑戦しているEVはイノベーションなのかを考えてみます。
タイプ2、5あたりが該当するのかと思います。これまで、モビリティー製品がエンジンやタービンをベースにしており、その技術を所有する企業がモビリティー製品の事業を遂行できていました。近年、電動技術の革新によりエンジンでできていたことが電動化できるようになり、それの置き換えした製品を世に定着させることが、テスラがスタートアップとして挑戦しているのだと考えます。
また一部の人から、「EVを買っているのでなくテスラを買っている」といコメントを聞いたことがあります。この場合はタイプ3になるかと思います。

ただ、新しいことを実行しただけではだめで、定着しないとイノベーションを起こしたとは言えません。
電動化したモビリティー(例えばEV)が定着するためには、エンジンを用いたモビリティーより優れている機能や事象がなければ購買意欲にもつながらず、定着はしていかないです。
では、それは何か。私の知識の範囲ではそれが不明確であり、まさにその視点でテスラが実行している事業で我々が分析して学ばなければならないことではないかと思います。

トヨタはそのような視点で分析しているものの明確な解が見つかっていないのではないかと予測しています。そのように予測した根拠は、トヨタ代表者の記者会見です。アメリカの記者から「いつアメリカでトヨタのEVを買えるのか?」という質問に「いつアメリカはEVを買ってくれますか?」と質問を返しています。また、「多くのお客様が望むものをトヨタは作っていく」と公言しています。
ただ傍観しているわけではありません。世の中ではガソリン車がEVに置き換わるような風潮がありますが、トヨタはEVの活躍の場を低出力・短い航続距離と設定しており、最近ではe-パレットを発表しています。またグループ会社でcomsという小型車も販売しています。これらの行動が、明確な解と設定して事業を推進しているとしたら多くの人たちと認識がすれていることになります。

と、結論としてはインパクトがなく少し悶々として検索をしていた時に面白い記事を見つけました。
https://startupinnovators.jp/blog/61/
シュンペーターは、”イノベーションによる経済発展が起きる状況”も定義しています。
1.人口増加や生産された生産手段たる機器類の増加による継続的な推移
2.自然界の異変や社会的変動、政治的介入による推移
3.実証済みのルーティ以上のものを人々が求め、現状の生活の中で新しい可能性を認識し、その実現を要求することから生まれる推移

一般的には上記3の範疇で考えてしまいますが、今回のEVの置かれている状況を2とすると納得できることが多いです。
電動車がガソリン車より優れているかどうかではなく、例えば、各国エネルギー政策として電動車を推進しないといけない事情があると考えると納得できます。

そのような視点を指摘している人は多くいます。ただ、技術者は、単にEVを作るのではなく上記3を前提とした場合と2を前提にした場合で用意するものは違ってくる可能性があることに気を付けなければなりません。

今回の私の疑問を感じたのも、テスラがチャレンジしているEVがイノベーションとなりうるのかという根本的な議論が世の中で不十分なことが起因しているのかと思いました。

経済は、誰かの失敗だけでは成長せず、それをきっかけとした成功の積み重ねで成長していきます。成長しない経済は停滞感を生み、暮らしている我々が幸せを感じにくくなっていきます。
EVは経済成長するきっかけかも知れません。であれば、特に大企業は、失敗か成功かを傍観するのではなく、それを成功させて経済発展させる知恵を出し行動することが今求められているのではないでしょうか。また、メーカーに勤めるものとして、政治理由のイノベーションは面白くありません。お客様に新しい価値を提供するイノベーションを起こす行動を心がけたいと、この記事を書いていて感じました。

次回は、全固体電池を題材にさせていただきます。

<第二回予告>全固体電池の実際